旅先での料理の経験をシェアする「旅の食堂 ととら亭」(後編)
餃子専門サイト「東京餃子通信」の編集長の塚田亮一です。
今回の「プロに学ぶ餃子を美味しく作る秘訣」は、前回に引き続き『世界まるごとギョーザの旅』の著者であり柴又で「旅の食堂 ととら亭」を営む久保えーじさん、智子さんご夫妻に、世界のギョーザについて教えていただきました。
シチリア島で取材旅行中のえーじさんと智子さん(えーじさん提供)
世界のギョーザの見つけ方
えーじさんと智子さんは、2025年9月から新メニュー開発のためユーラシア大陸を横断する長期の旅に出ます。「今回の取材旅行のルート上にも、様々な世界のギョーザがありそうなんです。」と調査予定のギョーザのリストを見せてくれました。
お二人の旅の目的は日本で再現できる現地の料理を見つけ、帰国後に店のメニューに加えることです。このため、日本での地道な事前調査が重要。本やインターネットで情報を集めるのですが、言語の壁などで情報が極端に少ない国や地域もあり、調査は困難を極めます。それでも限られた時間で成果を出すため、出発前にある程度候補を絞り込んで旅に臨むそうです。
現地では地道に食べ歩きを行い、同じ料理でも複数店を比較します。「英語が通じなかったり相手が忙しかったりと簡単ではないのですが、お店の方に素材や調理方法について質問すると親切に教えてくれたり調理工程を見せてくれることも結構あります。」とえーじさんが現地での取材の様子を教えてくれました。
お店でのインタビュー以外にも、市場を歩いて食材を特定したり、料理教室に参加したりと、あらゆる角度からアプローチします。時には美術館や博物館で古い調理器具の展示から、伝統的な調理法のヒントを見つけることもあるそうです。こうして集めた無数の情報の断片を日本でつなぎ合わせ、試作を繰り返してようやく一つのレシピが完成します。
(左)モザンビークのマーケットを取材中の智子さん
(右)モンゴルのクッキングクラスでボーズの調理中の智子さん(えーじさん提供)
(右)モンゴルのクッキングクラスでボーズの調理中の智子さん(えーじさん提供)
(左)現地で購入したレシピ本
(右)取材旅行に向けて作成中の行程表と取材リスト(えーじさん提供)
(右)取材旅行に向けて作成中の行程表と取材リスト(えーじさん提供)
修道院で生まれたドイツの「マウルタッシェン」
「ドイツには修道院で生まれたユニークなギョーザがあります。」と、えーじさんは「マウルタッシェン」という料理を紹介してくれました。マウルタッシェンは、ドイツ南西部に位置するシュバーベン地方の伝統的な郷土料理。この地方は北イタリアとも近いため、イタリアの「ラビオリ」が伝わり独自進化したと考えられています。
その誕生には興味深い逸話があります。キリスト教の戒律で肉食が禁じられていた聖金曜日に、どうしてもお肉が食べたかった修道士が「生地で肉を隠してしまえば、神様にも見つからないだろう。」と考えて生み出したと言われています。
マウルタッシェンの形は四角く、日本のギョーザに比べるとかなり大きめなサイズ。小麦に卵を練り込んだ生地で、豚と牛の合いびき肉、ソーセージ、そしてほうれん草の餡がぎっしりと詰まっています。茹でたマウルタッシェンにソースやこんがり焼いたチーズをかけたり、温かいスープに浮かべたりと、現地では様々なスタイルで楽しまれているそうです。付け合わせとしてマッシュポテトやザワークラウトと共に提供され、ボリュームも満点なギョーザです。
「旅の食堂 ととら亭」で提供されたのフランクフルト風のマウルタッシェン
(左)シュバーベン地方のイメージ
(右/下)「旅の食堂 ととら亭」で提供されたフランクフルト風のマウルタッシェン
(右/下)「旅の食堂 ととら亭」で提供されたフランクフルト風のマウルタッシェン
アゼルバイジャンのギョーザは「ギューザ」
「日本のギョーザとよく似た名前の料理を、南コーカサス地方のアゼルバイジャンで見つけました。」と、えーじさんが紹介してくれたのは、その名も「ギューザ」。日本とアゼルバイジャンという遠く離れた2つの国で名前が近いというのはとても興味深いですね。
ギューザはラム肉を小麦の皮で包んだ料理です。茹でたギューザに溶かしバターと「スマック」という紫色のスパイスを振りかけて食べます。スマックはドライフルーツの粉末でさわやかな酸味が特徴のスパイスで、日本のゆかりに似ています。
えーじさんがギューザに注目をしたのは、その名称に加えて芸術的な包み方にもあります。「細かいひだを内側に丁寧に折り込んでいく複雑な包み方で包みます。中国の『ネズミ包み』の餃子やイタリアのサルディーニャ地方の『麦の穂包み』のクルルジョネスというパスタと驚くほどその包み方が似ています。」とえーじさん。
ギューザは、名前も形状も、世界のギョーザのつながりの中で重要な役割を持っていたのかもしれないですね。
(左)アゼルバイジャンのイメージ。
(右/下)「旅の食堂 ととら亭」で提供されたギューザ
(右/下)「旅の食堂 ととら亭」で提供されたギューザ
クルルジョネスの写真(えーじさん提供)
カザフスタンのスープギョーザ「チュチュバラ」
アゼルバイジャンからカスピ海を渡った先、カザフスタンやウズベキスタンなどが広がる中央アジア。えーじさんによると、この地域では「チュチュバラ」と呼ばれる、スープギョーザが広く食されているそうです。
チュチュパラは、王冠型に肉を包んだ小さめのスープギョーザです。えーじさんは「それぞれの国によって宗教などが異なるため、使われる肉が牛肉だったり、豚肉だったり、羊肉だったりと異なります。」と解説してくれました。ととら亭では、カザフスタン風で牛肉を使った「チュチュバラ」を再現して提供したことがあります。
(左)カザフスタンのイメージ。
(右/下)「旅の食堂 ととら亭」で提供されたチュチュバラ
(右/下)「旅の食堂 ととら亭」で提供されたチュチュバラ
また、中央アジアには「マンティ」と呼ばれる羊肉を包んだ蒸しギョーザも広く普及しているそうです。熱々に蒸しあがったマンティに、爽やかな風味のサワークリームをかけディルを散らして香りづけをして食べるのが現地の定番スタイルです。
- ウズベキスタンのマンティ(えーじさん提供)
店内でも販売されている『世界まるごとギョーザの旅』(かもめの本棚)
店舗情報
●店名:旅の食堂 ととら亭
●所在地〒125-0052 東京都葛飾区柴又4丁目8-10
●電話番号:03-6801-7003
●営業日時:こちらのリンクをご参考のうえお出掛けください
●公式サイト:https://totora.sakura.ne.jp/
●店名:旅の食堂 ととら亭
●所在地〒125-0052 東京都葛飾区柴又4丁目8-10
●電話番号:03-6801-7003
●営業日時:こちらのリンクをご参考のうえお出掛けください
●公式サイト:https://totora.sakura.ne.jp/
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塚田 亮一(「東京餃子通信」の編集長)
2010年開設の餃子専門ブログ「東京餃子通信」編集長。
「餃子は完全食」のスローガンのもと、おいしい餃子を求めてどこまでも。首都圏はもとより、宇都宮、浜松、福島などの餃子タウン、さらには世界中の餃子風料理を日々食べ歩く。
これまで食べ歩いた餃子店の数は3,000店以上。
長年の研究からたどり着いた手作り餃子も評判。また、趣味のマラソンを活かし、餃子専門店を走って巡る「餃子マラニック」を主催。
作って、食べて、走れる、餃界のオールラウンダー。(「食べあるキング」より引用)