盛夏「コングクス(豆乳麺)」の派閥抗争 ~塩、砂糖、豆と麺の種類はどうする?

盛夏「コングクス(豆乳麺)」の派閥抗争 ~塩、砂糖、豆と麺の種類はどうする?

派閥に分かれて食の好みを語る。どんなときでも盛り上がる鉄板の話題です。

日本でいえば「唐揚げレモン論争」や「きのこたけのこ戦争」、「目玉焼きになにをかけるか問題」あたりが定番と言えるでしょうか。私の場合は、レモンをかける派、きのこの山派、塩・コショウ派にそれぞれ所属しています。設問は省略しますが、そば派、つぶあん派、朝食はパン派、チョコミント苦手派にも籍があります。

似たような話が韓国にもあります。

まず有名なのは、タンスユク(酢豚)の甘酢ソースをかけるか、つけダレにするか問題でしょう。甘酢ソースと絡めて調和を重視する「プモク(かけ食べ)」派と、揚げたてのサクサク感を優先する「チンモク(つけ食べ)」派は、それこそ国を二分するほどにきっぱり分かれています。

(左)プモク派のタンスユク。甘酢ソースをどろっとかけて提供する
(右)チンモク派のタンスユク。甘酢ソースが別盛りでつけて食べる

この話題が生まれたのは2013年頃。もともとは出前の際に、甘酢ソースをかけると、運ぶ間に衣がしなしなになるのを防ぐ配慮でした。それが拡大して店内での注文でも別盛りのリクエストが増え、いつしか派閥が形成されていったそうです。

ほかにも、ドリンクの「凍え死んでもアイス」と「蒸され死んでもホット」。チョコミントを愛する「ミンチョ党」と「反ミンチョ党」。トッポッキ(甘辛の餅炒め)のサルトク(米餅)とミルトク(小麦粉餅)。中国料理店でのチャジャンミョン(ジャージャー麺)とチャンポン(激辛の海鮮麺)。フライドチキンとヤンニョム(辛味ダレ)チキン。スンデ(腸詰め)になにをつけて食べるか(塩、アミの塩辛、味噌、唐辛子酢味噌、醤油)など、論争の種は山ほどあります。

ただし、これらの派閥に私は所属しません。

コリアン・フード・コラムニストという職業ゆえに、食べ方が複数あるのなら、その全部を試してみなければ気が済まないからです。タンスユクなら、まずチンモクを食べてからプモクの味も見ます。チキンならパンバン(ハーフ&ハーフ)を注文。ただ唯一、ミンチョ党だけは全力辞退。どうしても苦手です。

(左)フライドチキンとヤンニョムチキンのパンバン
(右)チャムチャミョン。チャジャンミョンとチャンポンの合い盛り

 

■ 盛夏に大論争の冷やし麺

そんな楽しい派閥論争を踏まえつつ。
夏場になるとコングクス(豆乳麺)も派閥争いで盛り上がる料理のひとつです。

コンは大豆、グクスは麺。
便宜上、豆乳麺と訳しましたが、実際は水に浸しておいた大豆を茹でて、ミキサーにかけ、どろどろの液状になったものを冷やしてスープとします。液体を濾さないのでもったりと濃厚。ここに茹でた麺を入れ、少量の塩で味を調えます。大豆の香ばしさにあふれ、ほんのりとした甘味を楽しめるのがポイント。盛夏ならではの涼味であり、飲食店に出る「コングクス開始」の貼り紙をいまかいまかと心待ちにする人は多いです。

(左)コングクス。冷たさの中に大豆の香ばしさと甘味が凝縮する
(右)夏になると飲食店には「コングクス開始」の貼り紙が出る

コングクスにまつわる論争はいくつかあり、まずは味付けです。

先に、少量の塩でと書きましたが、南西部の全羅道ではそれが砂糖にかわります。塩と砂糖では味のベクトルが正反対。私も長らく塩味に慣れていたので、初めて全羅道でコングクスを食べたときは、しばらく砂糖の容器を前にして固まりました。予備知識としてはあったものの、味の想像がまったくできず、本当に入れて美味しいのか悩んだ次第です。半信半疑どころか、一信九疑ぐらいの気持ちでエイヤと投入すると......。

これがなんとも美味しかったんですねぇ。

食べた瞬間にまず思ったのは、おしるこのイメージでした。考えてみれば、豆を甘くするのはあんこと同じ理屈。餅のかわりに麺が入ったと思えば納得ができました。最初はおそるおそるではあったものの、いまは全羅道で食べるのを楽しみにしています。

(左)全羅道のコングクス店で撮影した卓上の塩と砂糖(容器が大きい)
(右)砂糖はスプーン2杯ぐらい。好きな人はもっとたくさん

さらに、麺の選択肢があります。

主流は小麦麺ですが、ククス(素麺)とカルグクス(うどん)ではまるで印象が違います。自家製麺にこだわる店がある一方、市販の乾麺も多く用いられます。店によっては中華麺やメミルグクス(そば)、南部を中心にところてんを入れる場合もあって、どれをもって好みとするかは、人によってまちまちです。

よりこだわるのであれば豆の種類も大事です。

人気が高いのは黒豆。コムン(黒い)コングクスと呼ばれ、灰色がかった色合いに仕上がります。より黒さを強調するのなら黒ゴマを足したりも。「ソリテ」と呼ばれるブランドの黒豆もあり、これは皮をむいた中は緑がかっています。皮を除いて作ればグリーンの色合いが涼やかですね。

(左)カルグクス(手打ちうどん)の麺を用いたコングクス
(右)メミルグクス(そば)の麺を用いたコングクス
(左)黒豆を用いた灰色のコングクス
(右)ソリテを用いた緑色のコングクス

そして、最近知ったのが大豆以外で作る調理法です。

京畿道漣川ヨンチョン郡のユルムグクス(ハトムギ麺)と、加平カピョン郡のチャッククス(松の実麺)は、いずれも地域の名産品を活用したものです。見た目はコングクスにそっくりですが、食べるとユルムグクスはハトムギ茶の風味があり、チャッククスは松の実の風味そのままでした。いずれも大豆を混ぜたりはせず、ハトムギ、松の実100%で作るとのこと。おそらく他の地域にも、知られざる「〇〇グクス」がまだまだあるんでしょうね。これは時間をかけて捜索したいと思います。

(左)京畿道漣川郡のユルムグクス
(右)京畿道加平郡のチャッククス

 

■ 新大久保のお気に入り

日本で食べる場合、私のお気に入りは東京・新大久保の「新大久保韓食堂」です。

灰色がかった黒豆コングクスと、グリーン鮮やかな枝豆コングクスの2種を用意。

黒豆は粉状になった皮が点々として香ばしさ満載。枝豆はいかにも夏らしい青々とした風味が心地よく、隠し味にはピスタチオが加えられています。

いずれのスープももったり濃厚でクリーミー。

淡い塩味の中に、しっかりとした甘味があって後を引きます。一般的なコングクスは、前夜から大豆を水に浸して柔らかくしますが、それを短縮して水っぽさを減らすのがポイントとか。かわりに煮込む時間を長くとらねばならず、手間はかかるものの濃厚な味に仕上がるそうです。そこへ固めに茹でた素麺を入れ、もったりシコシコの調和を楽しみます。

味変用に、塩、砂糖、エゴマきな粉と3種類出てくるのも嬉しいところ。

塩派、砂糖派の両方に気配りを見せつつ、第3の選択肢としてエゴマきな粉で香ばしさのアップもチョイスできます。

最初からしっかり味がついているので、何も入れずとも美味しいですが、いろいろ試してみたところ、黒豆コングクスには砂糖、枝豆コングクスにはエゴマきな粉が、私の所属派閥に決まりました。

なお、今年は3月から提供を始め、10月頃までを予定しているとのこと。同じく大豆を使った料理として、おからチヂミが抜群に美味しいので、それを一緒に頼むのもおすすめです。ソウルの広蔵市場で食べるピンデトク(緑豆チヂミ)にそっくりで、あれを日本で食べたい人には必ず推薦します。

新大久保「新大久保韓食堂」の黒豆コングクス(左)と枝豆コングクス(右)
おからチヂミのほかポッサム(茹で豚)やスンデ(腸詰め)もおすすめ

 

八田 靖史
八田 靖史(はった やすし)
コリアン・フード・コラムニスト。慶尚北道、および慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。ハングル能力検定協会理事。1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。韓国料理の魅力を伝えるべく、2001年より雑誌、新聞、WEBで執筆活動を開始。最近はトークイベントや講演のほか、韓国グルメツアーのプロデュースも行っている。著書に『韓国行ったらこれ食べよう!』『韓国かあさんの味とレシピ』(誠文堂新光社)、『あの名シーンを食べる! 韓国ドラマ食堂』(イースト・プレス)ほか多数。最新刊は2021年4月刊行の『目からウロコのハングル練習帳 改訂版』(学研プラス)。韓国料理が生活の一部になった人のためのウェブサイト「韓食生活」、YouTube「八田靖史の韓食動画」を運営。