朝鮮半島の中ほど、現在の大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国にまたがって位置する江原道は、東側を東海に面するも耕地となる平地が極めて少なく、全土の9割が山地という厳しい地理環境となっています。古くから土地に合った蕎麦、じゃがいも、とうもろこし、雑穀などの栽培が盛んで、それらを使った郷土料理を多く生み出してきました。

そのひとつが、マッククス(막국수) 。マッククスは薬味ダレをかせた冷たい混ぜ蕎麦で、マッ(막)は「ザッと」「パパッと」といったニュアンスを持つ接頭語、ククス(국수)は麺類のことです。蕎麦粉を使った麺料理は朝鮮半島全域で様々なものが作られてきましたが、このマッククスは江原道、その中でも特にチュンチョン(春川:춘천)地域の名物料理として近年、脚光を浴びています。
春川マッククスの特徴は、まず外皮ごと挽いた蕎麦粉で打った黒っぽい蕎麦の麺と言えましょう。そのような蕎麦粉を配合した生地を、製麺機を使って細長く押し出し、茹でてから流水で締め、よく水気をきって盛りつけます。味つけのベースは何と言っても甘酸っぱ辛い特製ヤンニョム(薬味ダレ)で、タイプによってはそこに爽やかなトンチミ(동치미:丸大根の水キムチ)やヨルムギムチ(열무김치:大根葉の水キムチ)の汁、もしくは塩味の鶏スープを注ぎます。パパッと手早く作り、できたものをザッと混ぜてササッと食べる、こんな場面が料理名の背景となっているようです。
マッククスには実際、汁たっぷりタイプ、汁なし混ぜ麺タイプ、えごま油をかけたものなど、いくつかの種類があります。また、ヤンニョムも店により家によりこだわりの配合がありますが、一般的には醤油、コチュジャン、粉唐辛子、酢、砂糖、おろしにんにく、ごま油などを混ぜ合わせて作ります。すりおろしたりんごや梨、サイダー、オリゴ糖などを加えて爽やかな風味を出すこともあります。
春川マッククスの発祥は意外に新しく1960年代ごろと言われますが、地方の一定地域で食べられていた料理が、名物郷土料理として次第に名を知られるようになり、その後韓流ドラマ・映画のロケ地として有名になった春川とワンセットで一躍、国内外に知れ渡るようになりました。春川では2008年から行政主導による「マッククス・タッカルビ祭り」が毎年秋に開催されており、国内外から多くの観光客が訪れています。18周年となった2025年度の「Kフード都市 春川、世界を取りこむ」というテーマからも、春川におけるマッククスの存在感を伺い知ることができます。

■ 春川マッククスのいろいろ
<汁たっぷりタイプ>
別名、ムルマッククス(물막국수)。ムル(물)は水、汁を意味します。蕎麦を茹でて流水で締めた後、水気をきって器に盛り、ヤンニョム、もみ海苔をのせ、水キムチの汁もしくは塩味の冷たい鶏スープ、もしくはそれらを配合した汁をかけます。水キムチの大根や大根葉を刻んだもの、茹で卵、ピョニュッ(茹でた牛肉や豚肉の薄切り)、生野菜(刻んだきゅうり、サンチュ、えごまの葉など)をのせることもあります。全体を混ぜて、薬味と混然一体となった汁を麺に絡めながらいただきます。

<汁なしタイプ>
別名、ピビムマッククス(비빔막국수)。ピビム(비빔)は混ぜることを意味します。茹でて冷やし水気をきった蕎麦をこんもりと盛り、ヤンニョム、もみ海苔、茹で卵、生野菜などをのせます。このタイプの場合、ヤンニョムはコチュジャンと酢を多めに配合して甘酸っぱ辛くすることが多いようです。また、このタイプの変化形ともいえるものに「チェンバン マッククス」(쟁반막국수)があります。これは、大皿に蕎麦を広げて盛り、細切りのきゅうり、大根、にんじん、紫キャベツ、サンチュ、茹でた豆もやし、茹で卵などを彩りよくのせ、たっぷりのヤンニョムをかけた豪華な一品で、チェンバンククス(쟁반국수)とも呼ばれます。チェンバン(쟁반)とはお盆もしくは盆状の食器のことです。

<油麺タイプ>
近年、話題になっている「トゥルキルム マッククス」(들기름 막국수)と呼ばれるタイプです。トゥルキルム(들기름)とはえごま油のこと。茹でて冷やし水気をきった蕎麦を、えごま油、醤油、だし汁などを混ぜ合わせたタレで和え、もみのり、刻み葱、すりごまなどをかけます。蕎麦特有のボソッとした食感と鄙びた風味が、えごま油でコーティングされることにより意外な美味しさに生まれる変わるようです。
