韓国グルメトレンド ~2026年はカルグクス、ローカル食材、K-MATCHA

韓国グルメトレンド ~2026年はカルグクス、ローカル食材、K-MATCHA

仕事柄、よく聞かれる質問のひとつ。

「これから流行る韓国料理はなんですか?」

はい、難問。コリアン・フード・コラムニストとして仕事をしていますので、常に答えを用意しておくようにはしますが、未来のことを語るのは難しいです。ありとあらゆる角度から新しいトレンドが飛び出して、一瞬の盛り上がりを見せたかと思えば、すぐ次に移ってしまうのが韓国料理の世界。気付いたらもうピークを迎えていて、わざわざ語るにはやや遅い、なんてこともよくあります。

なので、常日頃からいろいろな手段でトレンドの芽をリサーチするのですが、その中でも大事にしている手段のひとつが、新大久保の社長さんから話を聞くことです。

社長さんからすれば、これから流行るアイテム探しは、私以上に死活問題。

日夜、ありとあらゆるチャンネルで韓国のトレンドを追いかけ、これぞというものを見つけては、新メニューとして投入したり、新ブランドとして店舗を立ち上げたりします。しかもライバルの多い立地ですから、他店に先駆けて2歩も3歩も先を読まなければなりません。

さらに言えば、日本の消費者に刺さるかどうかも重要。

韓国でいくら流行っても、日本で伸びないことは多々ありますし、食材やサービス面から日本では難しいこともあります。実現可能かつ日本での展望に特化したトレンド情報を学べるのが、新大久保の社長さんとの会話なのです。端的に楽しい。

ということで、3人の社長さんにお会いしてきました。

 

■ 貝の出汁で味わう自家製麺

ハマグリとアサリに加えて野菜も具として入るハマサリカルグクス
自家製の手打ち麺は、太めでごわごわとしたしっかり食感
汁なしのタコ炒めカルグクス。ぷりぷりのタコを辛口に仕立てている
麺生堂は2025年11月11日オープン。チヂミやポッサム(茹で豚)も用意

まずは、昨年11月にオープンした「麺生堂」
自家製麺を自慢とするカルグクス(韓国式手打ちうどん)の専門店で、オ・スンミン社長から出店の経緯を伺いました。

「韓国を訪れる日本のみなさんにとって、グルメは大きな目的のひとつです。新大久保に韓国料理店は多いですが、ほとんどの店がなんでも扱います。食への関心が高い日本の方々が本場と同じものを食べられるよう、専門店が必要だと考えました。日本にはよく似たうどんがありますし、シジミ汁のように貝の出汁にも親しんでいます。アサリやハマグリをベースにピリッと辛さを効かせたスープはきっと口に合うはずです」

確かに新大久保の韓国料理店は、サムギョプサルも、チキンも、鍋料理も、その他の一品料理も幅広く用意して提供するところが多いです。カルグクスをメニューに載せる店も多々ありますが、自家製麺にこだわる専門店となれば、それは目を引きます。

韓国で海鮮系のカルグクスといえば西海岸が有名。広大な干潟でとれた貝類やテナガダコをふんだんに用いて作る

実のところ、昨今の韓国でもカルグクスはトレンドの料理として注目されていて、現代的な専門店が増え、麺にこだわったり、従来にない具を開拓したり、地方ごとの特色あるカルグクスを発掘するなど、洗練と再解釈が急ピッチで進められています。ホンバプ(ひとりごはん)の定着を背景に、日本のラーメンや、パスタの技法も取り込みながら、ビジュアル的にも映えるカルグクスが増加中です。

以前の記事で、次世代のコムタンについて書きましたが、個人的にはクッパの進化と並んで今後のトレンドを担う存在だと思っています。

韓国の最新スープ事情 次世代のコムタンは「豚」
https://www.moranbong.co.jp/hanshoku/gourmet/detail/11223.html

 

■ 韓国人が泣く郷土の味

シレギ入りのコダリチム。コダリのみ、イイダコ入りも用意する
莞島産の岩海苔でコダリとシレギ、ごはんを包んで一緒に味わう
コダリチムの煮汁で作るアルマニ(とびこ入り)チャーハン
コサム冷麺は、豚焼肉と一緒に食べる自家製麺の冷麺が看板メニュー

韓国の麺料理といえば、冷麺も有名。新大久保にはやはり自家製麺を売りにする「コサム冷麺専門店」がよく知られていますが、開店10周年を迎えるにあたって、11月から新メニューを投入しました。それを聞いて驚きましたね。

なんと、コダリチム(生干しスケトウダラの蒸し煮)を開始。

これは新大久保でもなかなか珍しい料理です。しかも、メイン食材のコダリは主産地である江原道の束草(ソクチョ)からわざわざ取り寄せるとのこと。

さらには、そのコダリを江原道の楊口(ヤング)産パンチボールシレギ(干した大根の葉)と一緒に煮込み、全羅南道の莞島(ワンド)から仕入れた岩海苔で包んで味わう、郷土食材オールスターズのような一品なのでした。

生干し(半乾燥)にするコダリのほか、江原道ではスケトウダラを野外でじっくり乾燥させたファンテの生産も盛ん
楊口の亥安(ヘアン)盆地はすり鉢状の地形からパンチボールと呼ばれる。ここで生産されるシレギは食感が柔らかくブランド食材として人気

地名だけで垂涎。これらをいかに揃えたのか、ハン・チエ社長に伺いました。

「他店では出せない専門性の高いものをと考えて、1年かけて準備をしました。日本の方にはまだ馴染みの薄いメニューかもしれませんが、韓国人は大好きな料理なので少しずつ浸透していけばと。まだ初めて1ヶ月ですが、最高で8回食べに来た人がいます。オモニ(母)の味を思い出したと涙された方もいらっしゃいましたし、この料理を日本で食べられるなんてと、みなさん次から次へとお友達を連れていらっしゃいます」

確かに食べてみると、ほろほろのコダリに甘辛い味が染みていて、ごはんと最高によく合います。岩海苔で包んで食べれば鮮烈な香りが、シレギと一緒に食べればほのかな苦味とひなびた風味が、それぞれコダリにアクセントを加えます。全部一緒に食べれば陶然のひと言。目の前のごはんがみるみるなくなって、韓国人が通い詰めるのも納得の味でした。

こうした地方のブランド食材も、韓国ではトレンドの最先端。新大久保で体験できるのは限りなく貴重です。

 

■ 日本で味わうK-MATCHA

昨年の韓国では抹茶ブームが過熱しました。韓国だけでなく世界的な現象とも言えますが、K-POPアイドルが抹茶ラテにハマっていたり、ダイエット効果が注目されたりしたことから、大手食品会社から抹茶味の新商品が相次いでいます。

チョコレート菓子やアイス、ドーナツなどはともかくとして、抹茶マッコリ、抹茶ハイボール、抹茶クリームトッポッキ(餅炒め)まで登場してくると、その過熱ぶりに韓国らしさを感じますね。

とはいえ、抹茶はむしろ日本のイメージが強く、さすがにこのブームは渡ってこないのではと思っていたのですが、いえいえそんなことはありません。

済州ブルーベリー抹茶ラテ(左)と抹茶クリームを載せた済州ダブル抹茶ラテ
ベーコン入りのカムジャパン(ジャガイモパン)とコグマパン(サツマイモパン)
店頭の看板で抹茶の文字を見て、大勢の観光客が足を止めて立ち寄る

「SHINCHON CAFE」のキム・ジョングク社長は、わざわざ韓国から抹茶を取り寄せ、「K-MATCHA」を掲げて販売を始めました。

「韓国の抹茶ブームを取り入れたかったのですが、そのままだと日本では差別化ができません。リサーチしたところ、済州島(チェジュド)に有機栽培のプレミアム抹茶がありました。これなら韓国グルメと合わせて楽しんでもらえるかなと。でも、意外だったのは日本のお客さんだけでなく、最近の新大久保は外国からの観光客も多く、むしろそういった方々の目を引くみたいですね。抹茶のおかげで客層が幅広くなりました」

なるほど、それは盲点とも言える需要ですね。

韓国まで行かずとも本場の味を楽しめるのは、新大久保ならではの魅力ですが、日本を訪れる外国人観光客にとっても2ヶ国いっぺんに旅する気分でお得なのかもしれません。

しかも、済州島といえば韓国有数のお茶どころですから、これもまた産地からわざわざ取り寄せた郷土食材と言えます。図式としては、西海岸風の魚介入りカルグクスや、江原道のコダリやシレギと共通する地方性が見えますね。

済州島は韓国南部にある最大の島で、温暖な気候から茶の生産が盛ん

ということで、3軒のお店を回って新店、新商品の話を聞いてみましたが、いずれも狙いとしているのはトレンドを意識しつつ、より解像度を上げた本場感だったのではないかなと。日本における2026年の韓国グルメは、「カルグクス、ローカル食材、K-MATCHA」をキーワードとしながら、より深みのある水準へアップグレードしていくと予想します。

うん、とっても楽しみ。

 

八田 靖史
八田 靖史(はった やすし)
コリアン・フード・コラムニスト。慶尚北道、および慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。ハングル能力検定協会理事。1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。韓国料理の魅力を伝えるべく、2001年より雑誌、新聞、WEBで執筆活動を開始。最近はトークイベントや講演のほか、韓国グルメツアーのプロデュースも行っている。著書に『韓国行ったらこれ食べよう!』『韓国かあさんの味とレシピ』(誠文堂新光社)、『あの名シーンを食べる! 韓国ドラマ食堂』(イースト・プレス)ほか多数。最新刊は2021年4月刊行の『目からウロコのハングル練習帳 改訂版』(学研プラス)。韓国料理が生活の一部になった人のためのウェブサイト「韓食生活」、YouTube「八田靖史の韓食動画」を運営。