ムルフェ(물회)

三方を海に囲まれた朝鮮半島では、海沿いの地域を中心に、新鮮な魚介類を刺身で食べる食習慣が古くからありました。日本語で「刺身」といえば基本的に魚介類の生を指しますが、韓国語で「刺身」にあたる「フェ」(회:膾)という言葉には、センフェ(생회:生膾=生の刺身)とスッケ(숙회:熟膾=加熱した刺身)の両方が含まれています。

そんな韓国料理のフェの中でも、済州島チェジュドをはじめ、南海や東海に面した一部地域で食べられてきた独特な料理に、ムルフェ(물회)があります。ムル(물)とは水や汁を意味し、直訳すると「つゆだくの刺身」。さしずめ、味噌やコチュジャン、にんにくなどで韓国式の味つけがなされた「冷や汁」に刺身と香味野菜のたっぷり入った料理ということができます。ムルフェの主材料となる魚介としては鯵、鯛、イカ、貝などがよく使われます。

済州島
済州島


ムルフェ

済州島では特に「チャリムルフェ」(자리물회)といって、スズメ鯛(チャリ:자리)という小型の地魚を骨ごと細切りにして入れたムルフェが夏の味覚として有名です。コチュジャンよりも味噌を味つけのベースとし、山椒の葉を入れるのも、済州島のムルフェの特徴です。

チャリムルフェ

そもそもムルフェとは、新鮮な魚介を手軽に美味しく食べる方法として生み出された、漁師の賄い料理、もしくは漁村の家庭料理というような立ち位置でした。韓国ではかねてより、都から遠く隔たった離島である済州島に蔑視・偏見のまなざしを向ける傾向があり、地魚の刺身を汁に絡めて食べるという済州島の食文化自体が本土の人々には衝撃的で受け入れ難く感じられていたようです。しかし、1990年代ごろから郷土名物料理として国内外のマスコミに取り上げられるようになり、済州島の食文化が観光的側面から脚光を浴びる中で、次第にその独自性が理解されてきたといえましょう。

ムルフェ


薬念研究所HP:キーワードで見る食文化 2026年9月「ムルフェ(물회)」より転載