酒肴向きの料理が極めて豊富な韓国料理の中でも、強烈な個性を放つ食材のひとつにホンオ(홍어)があります。ホンオは漢字で「洪魚」と書き、日本語では「ガンギエイ」と呼ばれます。韓国では、ホンオと似た「カオリ」(가오리:アカエイ)もしばしば食べられますが、カオリよりもホンオのほうが高級魚とされています。
エイの仲間は体組織に尿素が含まれるため、鮮度が落ちると急速に尿素が分解し、鼻をつくようなアンモニア臭を放つようになります。このため日本では、ほぼ全域的にエイが捕れながら、新鮮なものが手に入る一部地域で「かすべ」という呼び名で出回るほかは、「エイひれ」として食べられる程度でした。



一方、朝鮮半島では、特に南道(남도:ナムド)と呼ばれる全羅道地方を中心にホンオがさかんに食べられ、特にホンオの刺身(홍어회:ホンオフェ)はこの地方の宴会に欠かすことのできない大事な料理とされてきました。
ホンオフェは大きく分けて2種類あり、ひとつは新鮮なホンオを食べるもので、切り身にチョコチュジャン(초고추장:唐辛子酢味噌)をつけたり、生野菜とともにチョコチュジャンで和えて食べます。また、チョコチュジャンで和えたホンオフェを冷麺にのせた「フェピビンネンミョン」(회비빔냉면:刺身混ぜ冷麺)も有名です。
そしてもうひとつは、発酵させたホンオの刺身です。この発酵させたホンオこそ南道地方特有の食べもので、臭いの強烈さゆえに韓国人でも好みが大きく分かれるといいます。


■ ホンオを発酵させる方法
ホンオは切り身にしてから発酵させる、下述のような方法が一般的ですが、一匹丸ごと発酵させる場合もあります。丸ごと発酵させる場合も、仕込み方はほぼ同じです。
①陶器の甕の底に、きれいに洗った石をいくつか並べ入れる。
②その上に藁と松葉を3cmほどの厚さになるよう平らに敷く。
③ホンオは表面のネバネバがついたままエラや内臓を取り除いて大きな切り身にし、重ならないように並べ入れる。
④②と③を繰り返し、甕の口まで層状に重ねていく。
⑤甕の口をビニールで覆い、しっかりと縛る。
⑥日蔭に置き、気温や好みにより数日~1ヶ月ほど発酵させる。身が柔らかくなり刺激的なアンモニア臭を放つようになったらできあがり(2~3℃の低温で1ヶ月以上じっくり熟成させると、骨まで柔らかくなり風味も格別)。
⑦密閉容器に移して冷蔵庫に入れると、さらに1~2ヶ月間保存できる。
■ 黒山島のホンオ
ホンオは上述のとおり南道すなわち全羅道地方の郷土料理ですが、中でも木浦(목포:モッポ)の南西に浮かぶ黒山島(흑산도:フクサンド)こそが、古くからのホンオ名産地です。黒山島のホンオは大きなもので1メートルほどもあり、身が厚く、ヒレや顔、内臓、皮に至るまで捨てるところがないと言われます。
特に、産卵期を迎える11~3月がホンオの旬。この時期の新鮮なホンオのキモ(홍어애:ホンオエ)を刺身にして、塩と粉唐辛子を混ぜたものをつけて食べるのは、地元ならではの珍味中の珍味と言われます。

■ ホンオのいろいろな郷土料理
ホンオ マルグンタン(홍어 맑은탕)ホンオの澄んだスープ
発酵させたホンオを大根、大豆もやしなどとともに煮干しや昆布のダシ汁で煮、韓国かぼちゃ、葱、芹なども加えて塩、おろしにんにくで味を調えます。
ホンオチム(홍어찜):ホンオの蒸し煮
発酵させたホンオを一口大に切り、ヤンニョムジャン(薬味じょうゆ)をかけて蒸し煮にします。ゆでた大豆もやしや芹とともに食べたり、それらの野菜も一緒に蒸し煮にすることもあります。発酵させたホンオは、臭み抜きにマッコルリ(どぶろく)にしばらく浸したり、マッコルリでさっと洗い流すことがあります。
ホンオエグッ(홍어애국):ホンオのキモの辛味噌スープ
ホンオのキモと軟骨部分を味噌や粉唐辛子、にんにくで味つけしたスープで煮込み、麦のスプラウト(若葉)や葱、にんじん、青唐辛子、きのこなどを加えて仕上げます。
ホンオ コプチルムッ(홍어 껍질묵):ホンオの皮の煮こごり
ホンオの皮を水からゆっくり煮た後、型に流し込んで冷まし、固まったら一口大の薄切りにしてチョコチュジャン(唐辛子酢味噌)などをつけていただきます。冷まし固めるときに、ニラやパプリカなど野菜の千切りを入れることもあります。

■ 黄金の組合せ「ホンタッ」と「サマプ」
この地方では、ホンオ(홍어)とタッチュ(탁주:濁酒、どぶろく)をワンセットで「ホンタッ」(홍탁)と呼びます。クセの強いホンオを食べるときにどぶろくを流し込むように飲むことで、鼻を刺すアンモニア臭が緩和すると言われます。
また、サマプ(삼합:三合)といえば、ホンオ+白菜キムチ+茹で豚。この三つをサンチュで包み、一口で頬張って食べるのが通の食べ方とされます。
