先日、ネットで見かけたのですが、
「プルコギとチャプチェはどう違うんですか?」
という疑問を持つ人がいらっしゃるようです。
プルコギは牛焼肉。チャプチェは春雨炒め。韓国料理好きからすると、まったく別の料理に思えるので、最初は質問の意図がわかりませんでした。なにか別の料理と間違えているのかなとも。でも、調べてみると、同じ疑問を持つ人は少なくないようです。
「カツ丼とチャーシュー麺はどう違うんですか?」
ぐらい違うようにも思えるのですが、これはいったいなぜなのか......。
しばし戸惑ったのですが、質問の詳細を見ると納得できる部分がありました。日本でよく知られているプルコギは家庭料理のスタイルが多く、それに春雨を具として追加すると、確かに似たような雰囲気になります。味付けもゴマ油の香りを効かせた甘こってり味。となれば、どう違うのか気になるのも理解できるところです。
でも、ですね。
「本当はまったく違う料理なんですよ!」
「いいですか、みなさん!」
「プルコギと、チャプチェはですね!」
ということで、張り切って説明を始めるつもりだったのですが、少し書いたところで手が止まりました。プルコギとチャプチェって、いざ語ろうとするとだいぶ難しい。特にプルコギのほうはバリエーションも豊富なので、ひと言でこんな料理とは説明しにくいのでした。以下、長くなりましたが、それぞれのまとめです。




■ プルコギとは?
まず、プルコギについて。
実際の発音は、プル「ゴ」ギが近いですが、日本ではプルコギの表記が多く使われます。直訳ではプルが「火」、コギが「肉」。意味としては「焼いた肉」ぐらいなので、地域によっていろいろなバリエーションがあります。
私が思うスタンダードなプルコギは、ソウル式と呼ばれるもの。
薄切りの牛肉に、醤油、砂糖、酒、ゴマ油などで下味をつけ、中央の盛り上がったジンギスカン鍋風の鉄板で調理をします。へりの部分にダシ汁を注ぎ、牛肉と絡めながら焼いたりも。専用の鉄板でなくとも、煮るように焼くのがソウル式の特徴ですね。ダシ汁を韓国語で「ユクス」と呼ぶので、ユクスプルコギ、またはソウルプルコギと呼んで区別をします。
私が初めて韓国で食べたのもソウル式。その昔、友人の勤めるアルバイト先の社長が、せっかく日本から来たのだからとご馳走してくれました。なので、印象としても、専門店で食べる豪華な料理のイメージが強くあるように思います。
もともとは宮中料理のノビアニ(宮中式の牛焼肉)から派生しているので、それなりの格式があるのは頷けるところ。ユクスを用いる手法は、1950年代後半に生まれたと見られ、ソウルの「韓日館(ハニルグァン)」を元祖とする説がよく知られます。同じく宮中料理のシンソルロ(宮中式の寄せ鍋)や、ソゴギジョンゴル(牛肉鍋)からヒントを得たとも。これが1960年以降に広まって、ソウル式のプルコギとして定着していきます。




一方で、わざわざソウル式と呼ぶのは、違うスタイルがあるからですね。
有名なのは彦陽式と、光陽式。
彦陽は南東部の蔚山市にある町の名前。光陽は南西部の全羅南道に属する市です。ソウル式と合わせて韓国三大プルコギ。または、ソウルの旧称を漢陽と呼ぶので、三陽プルコギとも総称します。
まず、彦陽式では薄切りの牛肉に下味をつけ、両面焼きの網に挟んで、ひっくり返しながら炭火で焼きます。韓国語で網をソクセと呼ぶので、ソクセプルコギとも言いますし、水分が抜けてパサッ(カリッ、サクッ)と仕上がるのでパサップルコギとも。炭火の香りと、表面の香ばしさが何よりの持ち味。彦陽はセリの産地でもあるので、一緒に食べて瑞々しさとシャキシャキ感を楽しむのも特徴です。
対して、光陽式では牛肉を漬け込まず、直前にさっと味付けをするのが特徴。銅製の網を炭火の上に設置して、いわゆる焼肉のようなスタイルで調理するのが流儀です。近隣の白雲山が炭の名産地なので、その香りをいかにまとわせるのかも重要とのこと。私が行った店では、肉を広げずにうず高く載せ、肉の隙間にまで煙が入りこむように焼くのがよいと教えてくれました。
こうした地域的な違いのほか、家庭ではフライパンで炒めて作りますし(春雨を足してチャプチェに似るのはコレ)、定食店では1人前ずつ土鍋で煮るように調理をするトゥッペギプルコギを提供しています。




あとは、牛肉以外のプルコギも多数。
豚肉を使ったテジプルコギ、鶏肉のタップルコギ、アヒル肉のオリプルコギ、スルメイカのオジンオプルコギ、スルメイカと豚バラ肉を一緒に炒めたオサムプルコギ、フグの身をピリ辛に炒めたポップルコギなど、肉類のみならず魚介類までたいへん多彩です。




■ チャプチェとは?
一方、チャプチェはというと、こちらも話は複雑です。
そもそもの語源は「雑菜」と書いて、「いろいろな野菜」を意味します。現在では春雨が主役のような顔をしていますが、古い文献をひもとくと、野菜とキノコの和え物をチャプチェと呼んでいます。
一例として、17世紀に書かれた料理書の『飲食知味方』を見てみると、キュウリ、大根、緑豆モヤシ、セリ、ワラビ、ホウレンソウなど15種類の野菜、山菜と、4種類のキノコ、そしてキジ肉が食材としてあがっています。これらをそれぞれ同じ長さに切り揃え、生でよいものは生で、火を通すものは醤油、ゴマ油、ショウガ、コショウなどで炒め、キジ肉は茹でて細く裂き、大皿に盛りつけたところへ、味噌を薄く溶いたキジ肉のダシをかけてできあがり。
現在とはだいぶ違いますが、昔はこんな料理でした。
そこから春雨が使われ始めるのは、20世紀のはじめ。中国から製法が伝わって工場ができ、あっという間に普及していきます。1920年代に書かれた料理書には、春雨を使ったチャプチェが登場するので、このあたりが主役交代の端緒と言えましょう。
現在では春雨を使ったチャプチェが主流ですが、たくさんの野菜やキノコを用意して作るのは同じ。丁寧に作る場合は、素材ごとに茹でたり、炒めたりして、最後に茹でた春雨と和えて作りますが、手軽にパッと作るなら、いっぺんにフライパンで炒めるレシピもあります。


■ プルコギとチャプチェの違い
さて、これらを踏まえてまとめになりますが、プルコギとチャプチェを比較するのなら、プルコギはやっぱり牛肉が主役であって欲しい。薄切りの牛肉に下味をつけて、煮るように焼くなり、炙り焼くなりは自由ですが、野菜や春雨は脇役です。
チャプチェのほうは、古くは野菜、新しくは春雨が主役なので、牛肉が入ったとしてもそれは脇役。できれば野菜を具だくさんにして作ると、料理名の意味から考えても、ふさわしいものになりそうですね。
お互いに似る部分はありますが、歴史的にもバリエーション的にも幅広いので、ぜひいろいろ楽しんでみてください。
最後に余談ひとつ。
せっかくなので、モランボンの「春雨プルコギ」と「チャプチェ」を家で作ってみたのですが、「春雨プルコギ」には薄切りの牛肉をもみ込みたれに漬け込む工程があり、「チャプチェ」にはタケノコ、ニンジン、シイタケ、キクラゲなどの野菜入り調味料が用意されていました。あえて、ヨイショをするワケではないのですが、
「よく考えられているんだなぁ」
と改めて感心した次第。どちらにもこだわりが感じられました。




(左下)調理をした春雨プルコギ(牛モモ肉使用) / (右下)調理をしたチャプチェ(牛バラ肉使用)

