チャジャンミョンを食べたくてブラックデーの歴史を調べたら昔はもっとブラックだった

チャジャンミョンを食べたくてブラックデーの歴史を調べたら昔はもっとブラックだった

食べろと言われたら、なんでも喜んでいただく人生です。韓国でも、あれを食べろ、これを食べろと、薦めてくれる友人、知人、先輩がたくさんいました。そうやって経験を積んだおかげで、コリアン・フード・コラムニストという肩書きを得たのですが、どれだけ食べろと言われても、これだけは全力でお断りしたいものがひとつだけあります。

それがです。

いえ、決して、飴が嫌いなわけではないのです。甘いものは大好きですし、なんなら自分から進んででも食べます。飴そのものが嫌なのではなく、「飴を食べろ」がダメなんです。それは私だけでなく、みなさんにとっても同じこと。

韓国語の「ヨッ モゴラ(飴を食べろ)」は、

「クソくらえ!」
「ひどい目にあえ!」
「失敗しろ!」

と罵るときに使う慣用表現です(発音は「ヨン モゴラ」がより近い)。なので、飴をもらうだけなら喜んで食べますね。

センガンヨッ(ショウガ飴)とホバクヨッ(カボチャ飴)。
伝統的な屋台ではカンナで削って割りばしに巻き付けたり、ハサミでひと口大に切ったりして販売する

 

■ 真っ黒な料理を食べる日

そんな話を踏まえまして。

この記事がアップされるのは、ちょうどホワイトデーが終わった頃ですが、みなさんバレンタインデーからの期間をどのように過ごされましたでしょうか。本命、義理にかかわらず、チョコレートをあげたり、もらったり。そのお礼にキャンディやマシュマロ、あるいはちょっとしたプレゼントをお返ししたり。愛情や友情のやり取りに参加できた人は、とても幸せな時間だったのではないでしょうか。

でも、参加できなかった人もいますよね。

チョコレートをあげる人も、くれる人もおらず、ホワイトデーのお返しにも縁がなく、周囲の浮かれた雰囲気を横目に、どす黒い気持ちを心に抱えたみなさん。日本では来年まで鬱々としたままですが、韓国ではすぐにリベンジの機会が用意されています。

それが、4月14日のブラックデー。

日本でも知られた話になってきましたが、バレンタインデーにも、ホワイトデーにも縁のなかった人たちが、真っ黒な気持ちそのままに、黒い衣服に身を包み、アクセサリーも黒で揃え、真っ黒な料理を食べる、一面黒尽くしのイベントデーがあります。

今年のスイーツといえば、ドゥチョンク(ドバイもちクッキー)。
カダイフ麺とピスタチオフィリングをマシュマロ生地で包んでいる

韓国で黒い料理といえば、チャジャンミョン(ジャージャー麺)。

本場の中国や、日本では茶色っぽい味噌を麺に載せますが、韓国では春醤(チュンジャン)という独自の味噌を用います。カラメルを加えるのが特徴で、光沢のある真っ黒な見た目と、こってりとした甘さが持ち味です。その春醤を豚肉や野菜と一緒に油と炒め、水溶き片栗粉でとろみをつけて、茹でたての麺に載せたらできあがり。国民食と呼ばれるほどに人気の料理ですが、この日ばかりは暗い気持ちを増幅する役割を担います。

とはいえ、実際に衣装まで揃えて参加をする人は稀で、どちらかと言うと面白トピックのひとつとして、ネット記事を賑わす部分がより大きそうです。

しっかり語るのであれば、ブラックデーにシングルが集まってミーティング(合コン)を開催し、めでたくカップルが成立したら、5月14日のローズデーにバラの花を贈り合います。反対にブラックデーを一緒に過ごす友人すらいなければ、5月14日をイエローデーと呼んで、ひとり寂しくカレーライスを食べなければなりません。ローズデーで愛を深めたカップルは、その後も14日ごとに決まったイベントデーがあり......と話は延々続きます。

チャジャンミョン。よくかき混ぜて全体を真っ黒にしてから味わう
タンスユク(酢豚)やクンマンドゥ(焼き餃子)を添えるのも定番

 

■ ブラックデーの由来

ちなみになぜこんな酔狂なイベントデーが生まれたのかは、韓国でもあまりよくわかっておらず、1990年代に若者たちの間で始まったようだ、ぐらいの曖昧な情報しかありません。そこで古い新聞をひっくり返してみると面白い話がありました。1993年3月15日の京郷新聞記事に、こんな話が載っています。

「"私を困らせたらひどい目に遭う" 『ブラックデー』まで登場」

日本から伝わったホワイトデーが若者たちの間で定着し、そのうえで「今年は『ブラックデー』というまた違った正体不明の記念日が新しく作られ、いよいよ佳境に入った。」と伝えています。

ただし、いくら読んでもチャジャンミョンは登場しません。

「ブラックデーとはホワイトデーと違い、普段自分を困らせた人に『ヨッ モゴラ(飴を食べろ)』と飴をプレゼントするもの」

ここで冒頭の「ヨッ モゴラ」が登場です。

「ホワイトデーになにもくれなかったら、ブラックデーに飴を食べろと報復する」

みたいな話が紹介されており、お返しの飴と「ヨッ モゴラ」をかけたお遊びだったようですね。韓国語の慣用句とイベントデーが、うまく組み合わさった形と言えます。

その後、1996年2月10日の東亜日報記事を見ると、

「最近は『ブラックデー』まで登場した。4月14日のブラックデーはバレンタインデーやホワイトデーに何ももらえなかった『ハズレ男』と『ハズレ女』たちが黒い服を着て、食事も真っ黒いチャジャンミョンを食べ、ブラックコーヒーを飲む日だと名付けられた」

とあるので、この頃には現在の形で定着したようです。飴のやり取りからホワイトデーの反対語としてブラックデーが生まれ、ブラックからの連想で黒い料理のチャジャンミョンに行き着いた。そんな経緯だったのではないかと想像します。

チャジャンミョンの後にブラックコーヒーや黒ゴマアイスを味わう人も

 

■ チャジャンミョンのおすすめ店

せっかくなので、ブラックデーのタイミングで韓国にいるのであれば、ぜひチャジャンミョンを食べてみてください。基本的にどの町でも食べられますが、より本格を目指すのであれば仁川をおすすめします。空港の町として知られますが、鉄道の仁川駅前にはチャイナタウンが広がって、たくさんの中国料理店があります。

そもそも、中国料理の多くは19世紀後半に中国から仁川に伝わりました。チャジャンミョンも、もともとは同胞向けに作られたものが、次第にローカライズされて現在のスタイルになったそうです。

店の選択肢は豊富ですが、有名どころとして「共和春」「新勝飯店」「萬多福」の3軒があげられます。「共和春」と「新勝飯店」は、仁川における老舗の系譜を継ぐ店。「萬多福」は、100年前のチャジャンミョンを再現したメニューを自慢とします。どちらも大人気なので、ランチタイムは行列覚悟です。

仁川市のチャイナタウン
「共和春」のチャジャンミョン
「新勝飯店」のユニチャジャンミョン(ひき肉ジャージャー麺)
「萬多福」の100年白チャジャンミョン(黒もある)

日本で食べるのであれば、私の行きつけは新大久保の「珍食堂」。

甘味の濃厚な黒味噌と、つるつるもっちり麺の組み合わせが相性ぴったりです。個人的にはとろみをつけずに炒めるカンチャジャンがよりおすすめなのですが、ブラックデーに食べるとなると少し悩むところがありますね。社長が釜山の出身なので、カンチャジャンには目玉焼きを載せるのが地域の流儀です。

半熟の黄身をとろーり絡めながら食べるのが最高なのですが、それだと黒一色とは言えなくなるような。ブラックデーの純粋さにこだわってチャジャンミョンを食べるか、イエローデーを兼ねるつもりでカンチャジャンにするか。

あと、1ヶ月かけて悩みに悩もうと思います。

なお、イイダコ、ムール貝、アサリ、イカなどの魚介をたっぷり入れた激辛仕立てのチャンポンもおすすめですが、レッドデーはありませんので、こちらはいつ食べても大丈夫です。

「珍食堂」のチャジャンミョン。
カンチャジャンは麺と黒味噌を別盛りにして目玉焼きが載る。海鮮たっぷりの激辛チャンポンも人気

 

八田 靖史
八田 靖史(はった やすし)
コリアン・フード・コラムニスト。慶尚北道、および慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。ハングル能力検定協会理事。1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。韓国料理の魅力を伝えるべく、2001年より雑誌、新聞、WEBで執筆活動を開始。最近はトークイベントや講演のほか、韓国グルメツアーのプロデュースも行っている。著書に『韓国行ったらこれ食べよう!』『韓国かあさんの味とレシピ』(誠文堂新光社)、『あの名シーンを食べる! 韓国ドラマ食堂』(イースト・プレス)ほか多数。最新刊は2021年4月刊行の『目からウロコのハングル練習帳 改訂版』(学研プラス)。韓国料理が生活の一部になった人のためのウェブサイト「韓食生活」、YouTube「八田靖史の韓食動画」を運営。